THAILAND
ONE VILLAGE ONE PRODUCT PROJECT
「射てつく日差しの光彩。ここ暫くの真夏ぶりに忘れかけていたタイの体感温度を想い出させる。3月のタイの夏である。バンコクでの講演を終え、バンコクから500キロ北西、ラオスとの国境に近いサコンナコンの空港に降り立つ。県知事や村の地域リーダーの出迎え、そして日本人の海外青年協力隊の面々。思いもよらぬ歓迎振りに、責務の重さが無意識のうちにのしかかってきた。「タイ国デザインプオジェクト」の始まりである。
タイの経済復興を担い、年始めに就任したタクシン首相が掲げた政策のひとつで都市と地方との賃金格差の是正を目的としている。首相の事務所での担当官らとのブレストで判ったことだが、このプロジェクトは別名「一村一品運動」、正に日本の大分県の事例が教科書に成っていることを知った。
'91日本産業デザイン振興協会の地域デザイン会議大分で私はパネラーとして出席していた。その時、進行中の一村一品には椎茸、かぼすなど大分の味を代表するものがあげられ、ブランド戦略、商品開発、パッケージデザイン、販促、流通導入などのいずれも村が苦手とするプロセスが論じられていた。あれから10年、かくして成功を修めた大分に世界が学ぼうとしていた事実には、あらためて驚かされた。
私を乗せた旧式のハイエースは村から村へと時間を惜しむかのように移動を繰り返した。村に着くと村長や村の有力者が、彼らの生業の品々を披露してくれる。その時決まってくる質問が、「これが日本で売れるか。」である。私の仕事はここから始まる。現地の素材や伝来の技術を理解し、それをデザインというプロセスを通して商品に仕上げていくのだ。日本や欧米のテイストを加味した輸出向けのデザインは、思ったよりもたやすい。むしろ、暑さに参った。木陰のテーブルにスケッチパッドとマーカーペンをひろげ、インテリア商品のスケッチを始めると村人たちが周りを取り巻く。そして出来あがったスケッチに合掌する村人の姿がいまでも焼きついている。
次は私ではなく、あなたがたの中から商品開発のプロセスを学ぶ人を送り出して欲しいと、握手をして立ち去る村々。通算26点のデザインを残し、タイを後にした。
村々からの試作品が手元に届き、修正指導をし、商品としての顔が見れるのは、今年9月の東京ギフトショー。このプロジェクトの成果が問われる。」
JUL.2001
プロジェクト・ディレクター 村田 智明
<『芦屋倶楽部』寄稿分より>
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